荒牧重人

子どもの権利条約総合研究所は、子どもにかかわる取り組みのグローバルスタンダードである子どもの権利条約に関する総合的でかつ実践的な研究をすすめることを目的として、研究者・専門家、医師、教職員・施設職員、議員、自治体職員、NPO・NGOスタッフ等が参加するなかで、2002年3月に設立されました。研究所は、国内ではNPO法人(非営利特別活動法人)として、国際的には国連NGOに登録されています。

研究所は、設立以来、その目的を果たすべく、さまざまな活動を展開しています。

公開の定例研究会や「フォーラム子どもの権利研究」(2015年度から定期総会にあわせた「研究総会」へ移行)の開催、総合的研究誌『子どもの権利研究』(日本評論社)の発行、『子どもにやさしいまちづくり』(日本評論社)をはじめとする研究所叢書の刊行など、学際的な研究の進展および専門家の養成・ネットワークに取り組んでいます。

また、自治体との共同で、「地方自治と子ども施策全国自治体シンポジウム」を2002年から毎年開催し、子ども施策と「子どもにやさしいまちづくり」を推進しています。

さらに、韓国の児童権利学会、国家人権委員会、ソウル特別市・京畿道・光州広域市等の自治体、南漢山小学校等の学校現場との学術・実践交流、「アジア子どもの権利フォーラム」の開催(2009年ソウル、2011年東京、2014年ウランバートル、2016年インドネシア〔予定〕)等を通じたアジアの研究者・政府機関・NGO等とのネットワークなどをすすめています。加えて、ユニセフ・イノチェンティ子ども研究センター(前「子どもにやさしいまちづくり」国際事務局)等との学術交流もしてきました。また、国連NGOとして、子どもの権利条約NGOレポート連絡会議の事務局を担い、条約の審査が効果的になされるよう国連・子どもの権利委員会へ情報提供等の活動もしています。

さらに、東日本大震災子ども支援ネットワークの運営団体として、子ども支援や子どもの意見表明・参加等にかかわるアドボカシー等をおこなっています。

当研究所の身の丈からすると、少し展開しすぎであるとも感じられますが、このような活動は、子どもおよび子どもの権利条約をめぐる状況はいっそう厳しさを増しているなかで、それどころか、条約の背景および理念ともいえる「子どもを戦争や紛争の犠牲者にしない」ということをめぐって危機的な事態がもたらされようとしているなかで、いっそう進展させていくことが求められています。子どもの権利条約を実質的にグローバルスタンダードにして日本および世界の子どもたちにとって効果あるものにしていくことが不可欠な時代にますますなっています。

わたしたちは、これまでの研究と実践の積み重ねにより、子どもの権利条約を単に理念にとどめることなく、具体的かつ実践的に解釈・運用できるようになっています。このことをもっと積極的に発信し、日本およびアジア・世界の共通認識にしていきたいと思います。

そして、当研究所が設立以来追求してきたように、子どもに関わる取り組みや子どもの権利条約を主義主張の対立や政治の争いにせず、今および未来の社会の主体である子どもにとって最善の利益とは何かが第一義的に考慮され、子どもがその人格や尊厳を大切にして生きていけるよう条件整備・支援されることを大切にしていきます。

当研究所がその今日的な役割を果たしていけるよう、わたし自身のポジショニングを常に意識・自覚しながら、研究所のメンバーや関係者のみなさんとこれまで以上に協働していきたいと思います。そのためにも、若手・中堅の人たちが(実践感覚・能力を持った研究者として、あるいは研究能力を持った実践家として)研究面でも実践面でもいっそう活躍でき、かつ世代間のバランスの良い運営ができるよう、微力ながら尽力したいと考えています。